中小企業の成長を加速させる! 採用・人材育成 外国人・障がい者雇用 の可能性

はじめに

 まず、2024年卒の学生の就職・採用活動の環境について述べる。リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査」によると、2024年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした大卒求人倍率は1.71倍であり、2023年卒の1.58倍から0.13ポイント増加している。これにより、コロナ禍前の水準に回復しつつあることが分かる。

しかし、「5,000人以上の企業」に限ると大卒求人倍率は0.41倍にとどまり、求人数に対して就職希望者数が大幅に上回っており、人気が集中していることがうかがえる。さらに、大企業は資金を投入して優秀な人材を確保しようとしている。先日、東京海上日動が最高初任給を41万2,320円に引き上げると発表したことも記憶に新しい。

 大企業が人気を集めるだけでなく、資金力を生かして「強者の戦略」により優秀な人材を確保しようとする中、中小企業の採用環境は非常に厳しい。中小企業は「選ばれる立場」であり、採用にかけられる資金も限られている。資金が潤沢でない以上、知恵を絞り、「弱者の戦略」によって人材を確保することが求められる。その戦略の一つとして、「外国人・障がい者雇用」は選択肢と成り得るのか考察したい。

外国人雇用の現状

 近年、日本の労働市場における外国人労働者の存在感が増している。厚生労働省の最新の発表によると、2024年10月末時点での外国人労働者数は 230万2,587人 に達し、前年比 25万3,912人増 となった。これは、2007年に届出が義務化されて以来、過去最多を更新し続けている。また、外国人を雇用する事業所数も 34万2,087所 に上り、前年比 2万3,312所増 で、増加率も前年の6.7%から 7.3% へと上昇した。

 国籍別では、ベトナムが最多の57万708人(全体の24.8%)で、次いで 中国40万8,805人(17.8%)、フィリピン24万5,565人(10.7%) の順となっている。これらのデータからも分かるよ
うに、日本の労働市場では外国人労働者の受け入れが拡大しているのは明らかである。

 深刻な人手不足を補うために導入された特定技能制度は、2024年4月で施行から5年を迎えた。政府は当初、5年間で最大34万5000人の受け入れを見込んでいた。しかし、制度導入の翌年に新型コロナウイルスの感染拡大により新規入国が制限され、特定技能の受け入れは大幅に遅れた。その結果、2023年末時点での外国人労働者数は 約21万人 と、想定の6割にとどまっている。ただし、出入国在留管理庁の担当者によれば、「コロナ後は順調な増加傾向にあり、今後もさらなる増加が見込まれる」としている。

 従来の技能実習制度は廃止が決まっている。これまでは「日本の技術を持ち帰ってもらうこと」に主目的を置いていた技能実習制度を、2027年度から順次「外国人を日本の人材として確保する」育成就労制度に転換し、政府は今後5年間で特定技能による外国人材の受け入れを82万人に倍増させる方針を示している。こうした制度の転換により、外国人労働者の受け入れの軸足が特定技能へと移行することが鮮明になってきた。

障がい者雇用の現状

 民間企業における障がい者雇用も増加傾向にある。2024年の厚生労働省の調査によると、民間企業で雇用されている障がい者数は 67万7,461.5人で、前年比5.5%増となり、21年連続で過去最高を更新した。実雇用率は2.41%(前年2.33%)で、13年連続で過去最高となったが、法定雇用率2.5%を達成した企業の割合は46.0%(前年50.1%)と低下した。

 なお従業員が一定数以上の規模の事業主に対し、従業員に占める身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者を一定以上にするよう義務を課されており、その割合を「法定雇用率」というが、
現在は2.5%となっている。つまり、従業員が40人以上の事業主は1人以上の障がい者を雇わなければならない。

 企業規模別に見ると、全ての規模で雇用者数・実雇用率ともに増加し、特に1,000人以上の企業では法定雇用率を上回る一方で、小規模企業では達成率が低かった。産業別では、全業種で雇用が増加し、「医療・福祉」分野の実雇用率(3.19%)が法定雇用率を超えた。

 一方、法定雇用率を未達成の企業は63,364社に上り、そのうち1人不足の企業が64.1%、障がい者を1人も雇用していない企業が57.6%を占めた。今後、特に小規模企業の雇用率向上に向けた施策が求められる。

外国人・障がい者雇用のリアル

 外国人雇用は、受け入れまでに時間が掛かるものの、計画的に進めれば確実に人材を確保できる点が大きなメリットである。現行の制度では最初の3年間は退職ができないため、安定した労働力として期待できる。また、「お金を稼ぐ」という強い動機があるため、勤勉な傾向にある。これまではベトナム人労働者が多かったが、近年は手数料の高騰もあって、他の東南アジアの国にも着目している。フィリピンやスリランカ、バングラデシュもあるが、特に注目されているのは軍事国家化で23歳~ 32歳の男性に出国制限が掛かっているものの、国家情勢が不安定で家族を支える意識が強く、日本との物価差が大きいミャンマーである。

 しかし、言語や文化の違いに起因する課題も多い。例えば、ベトナム人は金銭に対する意識が強く、また仲間意識も非常に強いため、日本人の事業主や上司よりも同胞の意見を優先する傾向がある。また、寮の準備には100万円以上かかることもあり、犯罪や失踪のリスクも無視できない。さらに、副業として転売を行うケースもあり、Facebookなどで副業や転売を勧誘する情報が出回るが、ベトナム語で書かれているため発見が困難である。

 一方、障がい者雇用については、「マイナスイメージを回避するために仕方なく雇用する」という側面が強い。常時100人以上の労働者を雇用する企業が障がい者法定雇用率を未達成の場合、1人当たり月額5万円の納付金が発生し、行政指導を受けても改善が見られない場合には企業名が公表される。経済的な負担に加え、企業名の公表によるイメージダウンも大きな懸念となる。

 こうした背景から、多くの企業が障がい者人材紹介会社を利用して雇用を進めているが、身体障がい者や知的障がい者は人気が高く、確保が難しい。身体障がい者は必要な配慮が明確で、知的障がい者は学校を通じた就職支援が充実しており、就職率はほぼ100%とされるためである。対照的に、精神障がい者は比較的採用しやすいものの、雇用後の対応が難しいケースが多い。突然暴れる、急に意欲を失うといった事例も報告されており、企業側には柔軟な対応が求められる。

外国人・障がい者を受け入れるためのポイント

 外国人や障がい者を受け入れるために必要なポイントを2つ紹介する。これは、企業風土を良くする上でも重要であると考えているので、ぜひ参考にしてほしい。

 1つ目は「求める人物像や職務内容の言語化」である。どのような人物に、どのような職務を任せたいのかを明確にすることで、「必須だと思っていたが、実は妥協できること」があると気づくかもしれない。例えば、一般事務の採用面接に「挨拶ができない精神障がい者」が来たとする。「挨拶できないのは論外」と切り捨てるのは簡単だが、そもそも一般事務職に挨拶はどれほど重要なのか。もし挨拶を条件から外すことで、優れた事務処理能力を持つ人材を採用できるのであれば、どう判断するだろうか。言語化することで、求める職務内容において譲れない点と妥協できる点が明確になる。言語化のためには職務内容を棚卸しすることが必要であるが、職務内容の棚卸しは本来中小企業の採用活動において必須のものである。

 2つ目は「個別的具体的対応力」の必要性である。外国人や障がい者を雇用する場合、どうしても個別の対応が求められる。それを特別扱いと捉える従業員もいるかもしれない。しかし、本来「個別的具体的な対応」は全ての従業員に対して必要なことである。外国人だから、障がい者だからといった「ダブルスタンダード」の目線をなくし、全従業員が働きやすい環境を構築することが、事業主に求められる。

山﨑 隆之
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山﨑 隆之

2024年4月登録。「中小企業の採用活動には戦略が必須」をモットーに採用コンサルとして活動する。社労士や行政書士の資格もフル活用して、一貫サポートができることが強み。