中小企業の成長を加速させる! 採用・人材育成 社員をやる気にする人材育成とは

 「最近の若手はやる気がなくて困る」
中小企業の社長や幹部からよく言われるフレーズです。

 私は企業に35年在籍し、そのうち約20年間は人事部門に在籍していました。人事部門以外では、経営企画、リスク管理、海外などの各部門において、リーダーや管理職の立場で人材育成に取り組んでまいりました。

 現在は、数名から300名までさまざまな規模の会社で人材育成のコンサルティングを実施するとともに、ヒューマンアセスメント業務で200名以上の個別指導を実施してきました。

 また、独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部の中小企業アドバイザー(人材支援)として、階層別研修やリーダーシップなどの研修企画を担当しています。自ら企画した研修を事務局席でモニタリングできることで、人材育成に熱心な著名講師の方々から、さまざまな手法を学ばせていただきました。

 こうした、経験と理論を組み合わせる中で、自分なりの「社員をやる気にさせる人材育成」を整理し、5つの結論にまとめてみました。

ほったらかしにせず声を掛ける

 当たり前のことですが、ほったらかしでは人は育ちません。背中で語ろうとしても、周囲はそれほど貴方の背中を見ていません(笑)。育成したいと思うなら、常に気に掛けて、声を掛けることが大切です。
あるクライアントの話です。建設業の会社で、社員は建設現場に直接出勤し、会社に出社するのは数カ月に1回程度とのことでした。久しぶりに若手メンバーが出社した際に、社長や幹部は、若手が挨拶もせずに素通りすることを嘆いていました。

「最近の若者は、挨拶もしない。社長なのに無視されている」

 これは逆ですね。社長や幹部から先に挨拶をすることが重要です。先に声を掛け、「私はあなたを見ているし、あなたのことを気に掛けている!」というメッセージを送ってください。
信頼関係を築く第一歩は、まず自分から相手に関心を示し、好意を見せることです。相手からの歓迎を待つのではなく、最初に自身から惜しみない愛情をきちんとと伝えてください。

教えるよりも気づかせる

 「社会人教育が学校教育と違うことは知っている」と言われるかもしれません。気づかせることは当然だとお考えの方も多いと思いますが、実際は気づかせることができていないケースが多いのです。どうしても、「こうやるんだ」「言う通りにしなさい」とつい語気を荒げてしまいます。教えようと思うから上から目線で迫ってしまい、結局相手のやる気をなくしてしまっているのです。

 仕事での行動パターンは大きく以下の3つに分けられます。
A:上司の指示によって動く
B:マニュアルによって動く
C:自分の考えによって動く

 あなたはどのパターンに最もやりがいを感じますか?

 聞いてみると、ほぼ全員Cと答えます。人間は、仕事においても主体的に行動したいものです。一方、上司に普段どのように部下に仕事を頼んでいますか? と聞いてみたところ、指示している人がかなり多い。つまり、部下が「やりがいを感じない」やり方で仕事をさせてしまっているということです。仕事のやりがいを感じてもらうためには、できるだけ自ら考えて動く場面を増やしていくことが大切です。

 人気の高い研修講師は、教えるのではなく、気づかせる講師であると思います。答えを伝えるのではなく、自分で考えて気づいてもらう。または、グループ討議で気づいてもらうか、講師の体験談から気づいてもらうのです。そのためのコミュニケーション手法の1つが「コーチング」であり、その中の「傾聴」「質問」になります。

小さな成功体験でほめる

 小さくても、成功体験は大げさにほめましょう。仕事でうまくいかないことが続くと、精神的なダメージが大きくなってきます。
表面上は平静を装っていても、内心は忸怩たる思いでいっぱいです。これでは、失敗を恐れて、チャレンジできなくなります。こうした際、小さくても成功する体験をさせてあげることが必要です。また、それが成功となったときには、ぜひほめてあげてください。

 人間は認められたい本能があります。マズローの欲求5段階モデルがありますよね。

 第一段階「食べたい、寝たいといった生理的欲求」、第二段階「安全で安心を求める安全欲求」、第三段階「人とつながる社会的欲求」に続く、第四段階「認められたい承認欲求」にあたります。

 なお、ほめてあげる時は、「良かったね」といった上司目線でなく、「私もうれしい」といった友達目線の方がより効果的です。受け手にとっては、その方がよりうれしくなります。

うまくいかない経験をあえて積ませる

 先程の話とは逆に見えるかもしれませんが、「うまくいかないこと」は貴重な経験になります。また、うまくいかないことは決して失敗ではありません。
エジソンは、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」と語っています。何度もうまくいかない経験を繰り返しながら、決してあきらめずに挑戦し続け、ついにはたくさんの発明を世に出しました。
成功の反対語は何でしょうか? エジソンは言っています。「チャレンジしないことだ」と。
人を育成するためには、うまくいかないだろうと分かっていても、あえて経験をさせてみることです。こうした経験は、成功へのプロセスにつながるとともに、同じミスを予防する絶大な効果があります。自らの失敗は決して忘れません。
職場の懇親会で部下が聞いてくれる話は、上司の失敗談です。成功体験を話すことは上司の自己満足でしかありません。成功体験は、たとえ部下が聞く姿勢を見せていたとしても、実は部下は聞き流しています。
著名講師は必ず自らがうまくいかなかった体験談を数多く語ります(成功体験はあまり語りません)。これは共感を得るためでもありますが、受講者に聞き入れられ、覚えてもらうことができるからです。
なお、うまくいかない体験や成功体験をほめることで、心理的な安全性が高まります。
心理的安全性は、Google社の実験結果の発表から、今では有名な言葉になっています。

我慢して見守る

 これは私が育成を行う際の最も大切にしている言葉です。人はすぐには変われない。これは皆さんの認識も同じではないかと思います。何度も指摘を受けて、何度もうまくいかない経験を越えて、ようやく本気で変わることにチャレンジし、でも挫折しながら、何とか変わっていけたことはありませんか。
身近なところでは、食生活や運動習慣、ダイエットなどです。失敗体験も多い中、うまくいった話もちらほら聞きます。人材育成も同じで、最後は本人が本気で変わろうとするかどうかです。ではその間、上司は何をするべきなのか……。

 我慢して待ちましょう。決して諦めずに、あたたかく見守って
ください。

 自分が上司の間に変われなくても、次の上司のときにはきっと変わってくれる、と思いながら待ちましょう。自分が教える側になってようやく、若手のときに上司に言われた言葉の意味が分かった経験があると思います。

 最後に、山本五十六の格言です。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
やる気にする人材育成の基本です。

中野 誠司
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中野 誠司

生命保険会社とそのIT関連会社に35年間在籍。2023年に「なかのビジネスサポート」として独立開業。現在は、組織・人事領域のコンサルティングと研修を実施している。