中小企業で輝く企業内診断士 作る・診る・支える:企業内診断士の歩み
3つの現場で磨いた視点 今から13年前、32歳の時に私は中小企業診断士試験に合格し ました。当時は100名強の東大阪の通信建設業の会社(以下、A 社)で経理業務全般に携わっていました。そして、試験に合格して から数年後、数十名のベンチャー企業(以下、B社)に転職。そこ でさまざまな案件を審査し、ファンド組成を行いました。そして現在 は90名ほどの製造・卸業の会社(以下、C社)にて、管理部長と して総務、経理、システム管理などの管理業務全般を担っています。 振り返れば、全く異なる3つの中小企業での経験が、今の私の 企業内診断士としての視点を形づくったように思います。
1.最初の現場での奮闘と学び−A社での経理業務
新卒で入社したA社では、子会社の小口現金の管理や月次決 算業務の作業補助から始まりました。小口現金を担当したばかりの 頃、当時の上司からは「現金過不足を絶対に出さないよう」強く厳 命されました。そして、日々の入出金管理では、二重チェックを徹 底し、毎日残高を合わせることに神経を注ぎました。それでも10 年弱の担当期間に数回の現金過不足を発生させてしまい、その時 は原因が判明するまで帰らず、残業して調べていたのも今となって は良い経験です。この時に1円を合わせることの大変さと重要さを 実感しました。そして、経験を積んでいく中で担当業務の幅も広が り、30歳を迎える頃には、「小口現金管理から月次・年次決算、 税務申告書作成まで」の一連の流れを経験することができました。 しかし、当時は自身で作成した資料や決算書などを見ても、会社 の経営上の問題点や課題点を洞察することができず、「決算書はつ くれるが診ることができない」というもどかしさを感じていました。も ちろん、簿記検定や建設業経理士の資格取得の勉強を通じて、 簡易な財務指標を知識としては知ってはいたものの、それらを使っ ても表面的な分析に留まり、経営者への情報提供ができるような レベルには至らなかったのです。 そんな中で「より経営に関する知識を深め、決算書などを分析し、 経営者への報告と提言ができるようになりたい」という強い思いが 芽生え、30歳の時に中小企業診断士の学習を始め、32歳の時 に合格できました。受験生時代の受験仲間との勉強はとても楽し く、さまざまな異業種の受験仲間や青年部などの診断士仲間との 交流は刺激も多く、その中で私自身の視野が広がり、新たな挑戦 をしてみたいと思うようになりました。その後、縁があり投資型のク ラウドファンディングを運営するベンチャー企業(B社)へと身を移し ました。
2. 異業種での挑戦−ベンチャー企業での審査と中小企業診断士資格
B社の仕事は資金調達を目指す多種多様な事業者の事業計画 と決算書を詳細に精査し、その「事業の実現可能性」と「投資家が 負うリスクを評価する」という業務内容です。これは前職の経理マ ンとして決算書などを作成する側の立場とは真逆の、外部から決 算書などを通じて企業を見るという立場に変わりました。業種も規 模も多岐にわたる企業の財務諸表と事業計画を日々読み込み、定 性的な情報(会社の様子や経営者の人となりなど)を営業マンから 報告を受けることは、知的好奇心を刺激される、非常に興味深く 楽しい経験でした。資料と報告内容を通じて各企業の個性や戦略、 そして事業者の熱意が垣間見えたからです。A社での経理経験を 通じて培った経理・財務の知見に加え、B社での経験は、数値デー タだけでは捉えきれない定性的な情報からリスクを評価する能力、 そして事業の本質を見抜く洞察力を養う上で、極めて貴重な財産 となりました。 さらにB社では営業担当者とチームを組み、匿名組合契約に基 づくファンド組成にも携わりました。営業担当者とともに資金調達を 希望する事業者さまの元へと訪問した時に、私の名刺に「中小企 業診断士」の肩書が入っているのを見た事業者の方から「診断士 をお持ちなんですね!」と声を掛けていただくことがたびたびありま した。この一言がきっかけとなり、その後の会話がスムーズに進む ことも少なくなく、資格が意外な場面でコミュニケーションの糸口と して役立つことを実感しました。
当時はクラウドファンディングの認知度が高まり、市場が急拡大 している時期であったため、年々、取り扱う案件の数が増加し、や がて、社内の人員だけでは全ての案件の調査・ファンド組成を行う ことが困難になってきました。そのような中で、受験仲間や協会・ 青年部、診断士のマラソンサークルなどのネットワークを通じて、 仲間たちの協力を得て、迅速かつ的確な外部調査を実施できる体 制を構築することができました。 また営業担当者とチームを組んで仕事をする中で、目標達成に 向けて奔走する営業担当者の姿を間近で見ることができ、経理部 門で書類と向き合う日々を送っていた前職の時には経験できなかっ た、貴重な学びとなりました。この時に、営業マンの目標達成へ の執念やプレッシャー、そして関係者とのコミュニケーションがいか に重要性かを、肌で感じることができたのです。 とても刺激的で、楽しい職場ではありましたが、故あって3社目 の現在の会社に転職することとなりました。
3. 現在−管理部長として幅広い業務に挑む
現在勤務しているC社は、規模感や業種・会社の雰囲気(昔な がらの業界で社歴が50年を超える中小企業)など、最初の勤務先 であるA社と共通する部分が多く、私にとっては馴染みやすい環境 でした。ただ、管理部という所属のため、経理業務はもとより、総 務やシステムといった、より広範囲なバックオフィス業務を管掌する 必要に迫られました。幸い、A社で経理業務を一通り経験してい たおかげで、制度会計に関する知識は比較的スムーズに業務に生 かすことができました。一方、総務やシステムに関しては、これま で全くの未経験の分野であり、文字通り一からのスタートとなりまし た。しかし、中小企業診断士試験の学習を通じて、経営全般、 組織・人事、そして情報システムに関する基礎知識を習得していたことが、大きな助けとなりました。過去に学んだ知識を実務経験 と結びつけながら、日々の業務を通して改めて学び直す日々を送っ ています。 また、昔ながらの業界で紙の書類が多く、手作業での転記・集 計作業も多かったため、業務効率化を図るべく、昨年、CMなどで も有名なノーコードツールやクラウド型の経費精算システムを導入し ました。今後も会社全体の生産性向上のため、会計システムや基 幹システムなどのシステム刷新プロジェクトも進めていく予定です。
4.最後に
3つの異なる現場での経験を通して、中小企業においては、幅 広い視野と柔軟な対応力、そして限られたリソース(ヒト・モノ・カ ネ)の中で何とかしようとする泥臭さも厭わない人材が求められると 実感しました。 加えて、中小企業診断士として企業内で働くことには多くのメ リットがあります。例えば、幅広い知識を生かして業務を行えるこ と、社内外の診断士ネットワークを活用できる可能性があること、 そして将来的に独立した際に中小企業の実態を深く理解(実感)で きることです。こうした経験は、診断士としての役割をより実践的 に捉える機会となり、キャリアの幅を広げる重要な資産になると思 います。 今後も、これまで培ってきた知識や経験を生かしながら、中小 企業の持続的な成長に貢献できるような中小企業診断士として努 めていきたいと考えています。
- 登録番号
神谷 邦男
大学卒業後、大阪の会社に入社。その後、直
接金融を行う第二種金融商品取引業の会社に
て審査・組成業務を統括。現在は製造・卸の会社の管理部
門にてバックオフィス全般を担当。