中小企業で輝く企業内診断士 健康経営と出会って

私が勤めている新品川商事株式会社(以降新品川商事)は、 国内セメントメーカーである太平洋セメントグループの連結子会 社で、セメントの販売を担う販売店という位置付けになります。 従業員数は60名程度のいわゆる中小企業です。 当社は1904年に私の曽祖父が設立した会社です。曽祖父は 当時の小野田セメント製造会社(以降小野田セメント)の神戸営業 所所長として山口県から神戸に赴任していましたが、神戸営業所 の閉鎖に伴い、小野田セメントを退社し、大阪に出て小野田セメ ントの販売店を起業したそうです。私は1993年に父親が社長を していた当時の品川商事株式会社に入社しましたが、その後のセ メントメーカーの大再編の流れの中で1998年に当社は、日本セ メント株式会社と小野田セメントが合併して新たに発足した太平 洋セメント株式会社の直系子会社である新品川商事となりました。 創業家出身ということもあり、早くから取締役を任されていまし たが、全く経営については不勉強であったため、50の手習いで はありませんが、一念発起し勉強を始め49歳にして診断士資格 を取得することができました。また、その後、労務関係に詳しい 社員が定年退社したことをきっかけに、社会保険労務士資格も取 得しました。 2つの資格を持ってはいましたが、取締役として働いている状 況だったので、独立や副業など、全く考えていませんでした。 そのような診断士生活の中、実務補習の恩師の方より「品川 君は健康経営を知っていますか?あなたのように診断士と社労士 の資格を持っている人にはお勧めの経営戦略だから、じっくり勉 強してみてはどうですか?」と言われました。当時の社会的な背景 として、健康日本21という21世紀における国民健康づくり運動が 国策として掲げられ、過労死が社会的な問題となるなど、その後 の働き方改革に向けての流れが始まろうとしている時代でした。

ご存じかとは思いますが、ここで、健康経営について簡単に説 明いたします。健康経営とはNPO法人健康経営研究会の理事 長である岡田邦夫先生が提唱された考え方で、【「企業が従業員 の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が 期待できる」との基盤に立って、健康を経営的視点から考え、戦 略的に実践することを意味しています】と定義されています。 私はセミナーなどで説明する際にBSC(バランス・スコアカード) の考え方の中で健康経営を説明するのですが、BSCの財務の視 点→顧客の視点→業務プロセスの視点→学習・成長の視点のま だ先に個人の健康の視点があると説明しています。従業員が健康 でイキイキ働くことが企業の土台であり、この従業員の健康が損な われ、パフォーマンスの低下や、戦線離脱となれば代替要員の少 ない中小企業においては大きな戦力低下になるということです。

神戸大学名誉教授の金井壽宏教授も「これまで経営学におけ る組織行動論の学者の誰もが、働く人がモチベーションを高く維 持するためにも、またリーダーとして危機的な状況でも正しい判 断が常にできる状態にするためにも、健康がその土台に必要で あることを見落としていた」と企業が従業員の健康に配慮すること は経営学の範疇であると仰っています。 このような時代背景や健康経営の考え方を知り、当社でまず 実践していこうと決めました。そうと決まれば善は急げで、2016 年に健康経営研究会(現在の健康経営・ウェルビーイング経営 研究会)を代表として立ち上げました。 ところが、当時は本屋さんに健康経営に関する書籍はほとんど なく、勉強するにしてもどこから手を付けて良いか全く分からない 状態でした。研究会の発足当時は少ない人数でただ集まって「ど うしましょうか?」みたいな状態だったことを記憶しています。一方 で、健康経営の考え方も徐々に社会に紹介され始め、岡田邦夫 先生のセミナーもぽつぽつと開催されるようになっていました。セ ミナーがあるという情報があれば、基本的には全て参加しました が、今思えば内容は何回行ってもほとんど同じ内容であったと思 います。ただ、セミナーに参加し、事例発表をされる企業や聴講 に来られていた企業と名刺交換をすることで、人脈が徐々に広 がったというメリットはありました。お知り合いになった企業に強引 に電話して事例を聞かせてほしいと押しかけていったことも今では 楽しい思い出です。

こうして健康経営を専門的に扱ってから2つの転機がありました。 1つは、経済産業省が健康経営優良法人という制度を創設したこ とです。これは健康経営を推進している企業を経済産業省が認 定するという制度で、2016年に第1回の申請が始まりました。当 社はその第1回に応募したところ、2017年2月に無事に認定をい ただくことができました。

この時点では全国で認定された企業数は95社、大阪府では6 社という状況でした。 もう1つは人脈の広がりによって、健康経営に関してお声をかけ ていただけるようになったことです。具体的にはNPO法人健康経 営研究会の認定講師となり、全国各地で健康経営のセミナーを 行いました。また、約5年間にわたって、大阪府や全国健康保険 協会大阪支部の依頼で、大阪府内の中小企業に健康経営の導 入支援を行いました。これは健康経営を導入したいが何から始め ていいのか分からないという中小企業に健康経営の理念策定、 組織体制の構築、課題の抽出、計画の立案などを支援すること で、自分自身も大変勉強になりました。

このように健康経営との出合いによって、いろいろな方と出会 い、会社の仕事以外での診断士としての楽しさを体験することが できました。しかしながら、私の1丁目1番地は自社の業績の向上 です。当社も業績的には順調で、私としては「健康経営の効果に よって業績が向上した!」と言いたいところなのですが、実は健康 経営の弱点の1つとして、その効果測定が困難で、健康経営と いう投資に対して、どのくらいのリターンが得られたのかというこ とが非常に分かりづらい点が挙げられます。ただ、健康経営を推 進していく中で、社員の皆さんの健康に対する意識が向上し、健康診断で「異常なし」が増加しているのも事実です。また、健康 経営を推進することで得られる効果の1つに採用面での有利さが 挙げられます。実際、当社に面接に来てくれる方々に当社の志望 理由を尋ねると、その1つに「健康経営を行っているからブラック ではない」や「健康経営優良法人認定を取得しているので、人を 大切にする印象を受ける」という回答をいただきます。 少子高齢化によって生産年齢人口が減少し、中小企業において は今後ますます人材の確保が困難になることが予想されます。特 に当社の場合は卸売業ということもあり、人が企業価値の源泉で す。今後も健康経営を継続し深化させ、従業員がウェルビーイング (幸せ)な状態で働ける環境を構築していきたいと考えています。

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